1997 請求書
賞味期限の切れたソーセージがまが冷蔵庫に残っていた
バターロールにはさんで食べた
味は普通だったけど
頭がくらくらする
胸もむかつく

受話器をあげると電話が通じなくなっていた
土砂降りの雨のなか、NTTまで歩いていった
胃袋からソーセージが逆流しそうだ
何もかも吐き出してしまいたい

電話料金の請求書はわたしの住所には届かない
もう縁を切ったはずの男に届いている
電話番号はわたしのものだけど
電話の権利はまだあの男のものなのだ

請求書の再発行をしてもらう為に
繰り返し書いてきたなまえを書く
「ごぜんひゃくななじゅうさんえんです」
私ではないわたしがわたしのいちまんえんさつを差し出す
受付けのおんなのひとは深紅の口紅をして
わたしの視線には答えずに
領収書とおつりを渡す

日本電信電話株式会社
領収証(Receipt)
お客様電話番号
(075)722-7182
お客様氏名
XXX X夫様
金額 平成9年度5月分 5173円

私ではないわたしがわたしを殴った男をなのりながらわたしのお金を受け取る
受付けのおんなのひとは深紅の口紅をして
わたしの視線には答えずに・・・・・・

雨が小降りになっている
水たまりをさけ横断歩道の白い帯の上を歩く
まだ腹がむかつく
ソーセージはもう捨ててしまおう
冷蔵庫にのこったタンパク源はあとは腐った卵だけだ

1997 請求書

  • Categories →
 
 
Back to top